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芸術の秋なので、ニューヨーク「よみタイム」よりチヨット良い話を紹介。
よみタイムVol.49 9月22日発行号 [其の3] 映画作家ジョナス・メカス 映画作家ジョナス・メカス 個人映画を芸術として確立 「自分の映像は生きている記録だ」 ソーホー地区ウースター・ストリート80番地の前の歩道際に2本の大木が立っている。街路樹ひとつないこの通りで、ビルの3階あたりまで届くほどに育った大木は、オアシスのようにあたりに爽やかさを与えている。ここを通るたびに30年前、若木だった時代のエピソードを思い出す。 ここにはそのころ、フィルムメーカーズ・シネマテークがあった。絵画や彫刻に代わって、フィルムを素材として表現する個人映画作家たちが出てきていたが、それらを扱う画廊や美術館はほとんどなく、作家たちが協力して自分たちの映画を上映して見せる場所を手にいれなくてはならなかった。経済力も政治力もない作家たちは、結局は自身、映画作家でありながら、ビレッジボイス紙に個人映画の批評を書き、法律や常識の既成の価値観と捨て身で闘って、新しい映画芸術をジャンルとして定着させることに成功しつつあったジョナス・メカスの情熱に頼ることになった。 なんども潰れては、シネマテークはまたどこかで息を吹き返した。私の知る限りでは、このシネマテークは3番目だ。最初はタイムズ・スクエアの近くで、ここではアンディ・ウオーホルの「チェルシー・ガールズ」が大ヒットした。2番目はパブリックシアターの中の一室で、上映中の会場の暗闇の暗さが映画を引き立てていた。 それまで外灯も信号もないゴーストタウンだったウースター・ストリートは開発が始まったばかり。なんとなく汚れた感じのロフトの1階にできた新しいシネマテークに、個人映画に飢えていた私たちはよく通った。 薄暗い座席で、映画が始まるまでの時間をぼんやりすごしていると、突然目の前に何かが近づいてきた。思わず目を向けると、目の前に濃いピンクのバラの花が一輪あった。その花を支えている白い長い指、腕。その先には、いたずらっぽく笑っているジョナス・メカスの目があった。幸せな気分に誘われて自然に笑いがこみあげた。新しいシネマテークの完成を誰よりも誇れるのはこの人のはずだった。 リトアニアでは名を知られた詩人だったジョナスは、第2次世界大戦中に祖国リトアニアで反戦地下新聞を発行してナチスに捕まり、ドイツの強制収容所に入れられて脱走中に終戦となったが、祖国がロシアに併合されたため戻ることができなかった。 4年間ヨーロッパを放浪し、あげくにニューヨークに来た彼は、森も木もないコンクリートの都会で母国語を失い、詩の表現を映像に託すようになった。戦争体験と祖国喪失を心につめこんだ彼の、自然や音楽や人々のやさしさに対する敏感さは日記映画という新しい映画のジャンルを生み、個人映画の古典となっている。 あの2本の木の話に戻ろう。あの木を植えたのは、このジョナス・メカスだった。通りがかったゴミ捨て場に捨てられていた2本の若い木を、自分の愛するシネマテークの入り口の前の歩道に植えた。次第に成長していく木は殺風景な入り口に潤いを与え、ロビーにもレースのような影を落とした。いい感じだった。 アーチスト村だったこの地域が商業化され、大きな画廊がいくつも進出してニューヨークのアートシーンを反映する盛り場SOHOになると、ストリートの整備を始めた市の役人から、歩道にある2本の木を伐るよう通告された。何度、催促されてもジョナスは拒否した。 「私は木を伐らない。伐る必要があるなら、市の方がここに来て伐ればいい」。市の役人は木を伐りにやってこなかった。シネマテークはとっくに閉鎖したが、木は今も生きている。あの木を見ると、弱い小国が強い大国に傷めつけられる戦争を体験した彼の「弱いものは、闘っても守ってやらなければならない」という正義感と弱者に対するいたわりが、弱く無力だった新しい個人映画を守り育てたのだと思わずにはいられない。 9月のはじめ、ムービングイメージ美術館でジョナスのビデオ上映会が開かれた。アメリカの地に第一歩を踏んだ戦争難民たちの戸惑いの表情を移した「Williamsburg, Brooklyn」(1949年)の白黒の映像。30年生きたマンハッタンからブルックリンに移り住み始めた82歳のジョナスのゼロからの再出発宣言「A Letter From Greenpoint」(2004年)からは衰えのないエネルギーが溢れた。「自分の映像は芸術などではない。日記だ。生きている記録だ」。生きていることほど驚異的なことはない、死地を通り抜けてきた人には、という風に聞こえた。 ジョナス・メカス(1922~) 映画美術館アンソロジーフィルムスアーカイブスの創設者、館長、映画作家、詩人。日記映画の数々は、Anthology Film Archives (212-505-5181)で周期的に上映される。 日本なら、木が大きくなる前に無粋な役所に切り倒されていただろう。筆者の知人が、ニューヨークを離れられないのは、本当の自由があるからで日本にある自由は偽物の自由にすぎない。筆者の知人は、イエローキャブに乗りながらカメラマンを続けているが、日本には帰りたくないという。 これからの日本は、ますます本当の自由が無くなり、野暮天国家に拍車がかかるような気がしてならない。 追記ーノーベル賞受賞の中村修二氏も、日本には自由が無いと発言している。真心ある人間は、日本には住めなくなっている。
by wakamiyaken
| 2014-10-06 03:59
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